円仁慈覚大師の足跡を訪ねて 
  阿南・ヴァージニア・史代 著 小池晴子 訳 ランダムハウス講談社 3800円+税 2007年10月

●書  評:五十嵐 貞一  

 
皆様は、慈覚大師円仁をご存知ですが?9世紀半ば、遣唐使僧として中国に渡航し、現在の江蘇省から山東半島、五台山、西安など唐土7,500kmを歩き、9年にわたって、当時の唐の文化を吸収し、紀行文「入唐求法巡礼行記」を著し、後に、天台座主となって、日本の仏教界、日本の文化に多大の影響を与えた名僧である。芭蕉が「閑さや岩にしみ入る蝉の声」と詠んだとされる山形の立石寺(山寺)も彼の創建と伝えられる。著者は、この円仁がたどった同じ行程をすべて自らの足で踏破し、風景を感じ、人と語り合い、写真を撮り、そして本書を著した。

 1200年の時空を越えて、円仁がたどった風景が、美しい写真となり、華麗な文章となって読者の前に現れる。あるものは、「現代の中国」を感じさせ、あるものは、「唐代の中国」を感じさせる。しかし、それが、悠久の歴史の中で、やはり最終的に「その頃と同じ景色・岩・道である」ことが、読者を感動に導く。そして、円仁の偉大な業績と人物像、悠久の歴史、文化交流の価値、そして、これからの日中関係のあり方など多くの事柄について、読者に考えるよすが、貴重な示唆を与える。唐の時代は、東アジアが開かれた、安定した文化圏を持った時代として知られる。東西の文化が交流し、大いに発展した時代である。(もっとも、そうした唐の文化を伝えた円仁が、帰国直前に唐王朝の武宗皇帝の過酷な廃仏毀釈運動を体験したことは、ある種、歴史の皮肉かもしれないが)。
  
 現在、東アジア共同体構想が語られるが、1200年前の円仁という高僧が命を掛けて記述した唐代という時代を、今このような形で振り返り、グローバル時代におけるアジアのあり方を考えてみることも意義あることではないか。

 著者は、これだけの業績を残した慈覚大師円仁が、弘法大師空海や伝教大師最澄程に人々に知られていないことを訝しく感じている。確かに、偉大=有名ではないことが、人間社会の常かもしれないが、やはり、偉大を偉大と思える感性は忘れたくないと思う。

商談の中国語ー貿易と投資ー
  杉田欣二   アスク社著  2800円+税

●書  評:横田龍次 

 
中国との交流、商談に対する具体的実務会話について、内容も豊富で、解説、コーヒーブレイクなど、中国との係わりが深い、ベテランの方々にも参考になろうかと思います。※日本経済新聞の625 日(日曜版)読書面に広告掲載されました。アポイントの取り方から始まり、引合いの入手、オファー、価格交渉、支払条件、コミッション、パッキング、納期、保険、仲裁、契約、クレーム処理という一連の商談の流れを対話形式で纏めているほか、OEM生産、逆見本市、外資誘致、中国企業の海外進出(走出去)、M&A といった新たな分野についても取り入れられています。内容的には、中級から上級レベルを想定。従って重要単語を除き、ピンイン表記無し。神田神保町の中国書籍専門店(内山書店、東方書店、亜東書店)か、三省堂、紀伊国屋書店、文教堂、丸善、有隣堂、ジュンク堂、八重洲ブックセンターなどの大型店で取り扱っていると思います。中国関係ビジネスに拘わる日本人のみならら、将来日中関係ビジネスでの仕事を目指す中国留学生のみなさんが、日中商談の通訳などを体験する場面もあるかと思いますが、貿易商談実務や専門用語などを事前に学習する優良教材としても参考になるかもしれません