「九億農民の福祉」
王文亮 中国書店 4830円

書  評:
 
 参議院事務局  杉本勝則


 
本書は、中国における「三農問題」をとりあげ、農民生活の困窮状況に理解を求めるとともに、社会保障の面からの解決方法を述べている。その筆法は、著者自身が江西省の農村部出身であるだけに、悲惨な現状を何とか改善したいという情熱がほとばしっているが、内容は情熱に溺れることなく、豊富な資料に裏付けされた学術的なものとなっている。

 本書は、農村における諸問題の根源を中国の都市と農村の二重構造に求めているので、社会保障制度のみならず経済発展の陰にある現代中国の諸問題を知る事ができる。また、問題を解決するための基本理念として日中両国の憲法構造を論じているので、両国の憲法制度、体制の違いについての理解を深めることもできる。

 日本人学生にとっては、とかく経済発展ばかりが喧伝される中国にあって、北京や上海だけでない中国があることを知るいい機会になると思うし、中国人留学生にとっても、都市部の出身者であるなら広い自国の違った面を知るいい機会になると思う。

 ただ、本書においては発展した現在の日本を中国の現状との比較で悲観的に述べているが、評者の子供の頃を振り返ってみると、高度経済成長前の日本の農村も中国の農村と大差がなかったように思う。明るい未来を信じて、経済発展の果実が中国農民にも及ぶように留学生諸君にも頑張ってほしい。